うめ先生のブログ

「子どもを集める」のではなく「子どもが集まる」保育をしよう!

食の援助「ひとくちチャレンジ」は注意が必要

保育者の食事援助についてこれまでも書いてきました。

    ■偏食な保育士が思うこと

    ■食の援助とは

 

これらの記事には毎回反響が大きいのです。

食事は私たちの生活から切り離せないものですし、前回の記事で書いたように保育者一人一人の生い立ちに基づいた考え方や援助があり、それが園の方針からも離れ一人歩きしていることで、自分の食の援助に自信が持てなくなる方も多いのだと思いました。

(一緒に組んでいる先輩保育者と自分の考え方が違うとかね。)

 

そんな中でも少しずつ「無理やり食べさせる」「他の子が午睡していても(次の活動に移っていても)完食するまで食べさせる」というようなあからさまに無理強いする援助は減って来ているかもしれません。

ですが「ひとくちだけ食べてみようか!」という提案は往々にして根付いている気がします。

 

セミナー中の質疑応答タイムでも、子どもの嫌いな食べ物が出されたときの援助として「ひとくちだけ食べさせる」と答えた方がいました。

また前回の記事へのコメントで「うちの園、ひとくちチャレンジ推奨園ですが・・・」と書いてくれた方もいました。

 

「ひとくちだけ食べてみよう!」というひとくちチャレンジ。私は、このこと自体を否定はしません。

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その「ひとくち」をきっかけに「嫌いではなかった」と気付くことがあったり、「嫌いだけど食べれたぞ!」と自信に繋がることはあるからです。ひとくちチャレンジの成功例ですね。

 

ですが同じひとくちチャレンジでも

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「嫌いなものを口に入れられた」「気持ち悪かったけど無理やり飲み込まされた。」ということに、心が深く傷付けられてしまう子どももいます。

 

あなたも想像してみてください。自分の嫌いなものをひとくちでも食べさせられた時のことを。中には「そんなことしたら吐いてしまいます!」という程に嫌いなものがある方もいるのではないでしょうか。

(嫌いな物がなく、そんな気持ちはわからないという先生は要注意ですよ。それがいかに苦しいことか想像しなければ、その子どもに寄り添えませんからね。)

 

そうすると、無理やりひとくち食べさせた先生を子どもは嫌いになることがあります。関係が壊れてしまうんですね。そして、それをきっかけに「ほいくえんいきたくない~」と登園を渋るようになる子どももいます。

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では、このように同じひとくちチャレンジでも結果に差が出るのはなぜなのか。考えたことがありますか?

 

保育者は誰しも子どもが大好きで、子どもの心身の健康を願うものです。好き嫌いがあるよりないほうがいい、何でもたくさん食べて欲しい、それは当たり前に願うことです。ですが、嫌いなものをなくさせたいばかりに子どもを傷付けたり、子どもとの関係を壊したり、登園渋りを引き起こすことは望んでもいないことですよね?

だとしたら、「ひとくちチャレンジ」をする前にしっかり考えましょう!安易なひとくちチャレンジは危険です。

 

食の援助「ひとくちチャレンジ」をする前に

◎まず「チャレンジ」について考えよう!

チャレンジ(挑戦)とは

1戦いや試合を挑むこと。

2困難な物事や新しい記録などに立ち向かうこと。

です。

 

なんだか急に高い壁が目の前にそびえ立った気がしてきますね。

でも嫌いなものを食べてみるということは、(自分が偏食だからこそ言えますが)結構大きな戦いです。

 

さてみなさん。

ここで食事に限らず、あなたなりの何かに挑戦するときのことを想像してみて下さい。

スポーツをされる方はその試合を思い浮かべたり、難しい試験を受けることや究極のダイエットに挑戦することを思い浮かべても大丈夫です。

 

思い浮かべましたか?

では、その挑戦が1週間後に迫っているとしましょう。一週間あなたはどう過ごしますか?スポーツの方はその練習に励みませんか?試験の方は必死に勉強しませんか?ダイエットの方、やり方を調べたり必要なグッズを揃えたりしませんか?

 

しますよね?

つまり大きな挑戦をする時は事前にしっかり準備をするものなんですよ。

準備をせずに挑んだ場合の結果は、大人になるまで人生を歩んで来たみなさんには察しがつくことでしょう。まぐれの成功は稀で、多くは失敗し挫折し、そのことに傷付くことと思います。

 

子どもの「ひとくちチャレンジ」も同じではないでしょうか?

何の準備も心構えもなく「ひとくちだけ!」と口に入れられたら辛さしか残りません。

チャレンジする前に、「チャレンジしてもいい段階なのか」それをしっかり保育者が見極めておくべきではないでしょうか?

 

◎「ひとくち」を挑戦するための準備とは(保育者編)

挑戦には準備が必要だと書きました。

スポーツだったらその練習であるとか、試験だったら勉強であるとか、どう準備すべきなのかわかりやすいと思います。

では「ひとくちチャレンジ」の準備とはなんでしょうか?

わたしなりに考えたことをまとめてみます。(偏食者である自分の経験、保育経験を踏まえて考えたことです。)

・食事する環境に慣れておく

そもそもよく知らない場所で食事をするということはハードルが高いです。だからこそ入園してすぐの慣らし保育期間は様子をみて徐々に給食を食べれるように援助しますよね。

この「知らない場所で食事をする」を大人で言うところの外食レベルに考えない方がいいです。子どもにとって保育園(幼稚園)に行き始めるということは初めて社会に出るということで、大人でいうところの「よく知らない国へ一人で行く」ようなものです。そのハードルの高さが伝わったでしょうか?

よく知らない場所、慣れてない場所で嫌いなものに挑戦するなんて大人でも嫌ですね。

まずはその場に慣れるように援助していきましょう。

環境と言えば当然「人的環境」も含まれます。食事の援助をする保育者への慣れも必要です。

 

そして「ひとくちチャレンジ」が出来るほどの環境とは、好きなものは旺盛に食べることが出来る状態であることです。環境に慣れず好きなものもあまり食べることが出来ない状況でのチャレンジは時期尚早です。

・保育者との信頼関係を築いておく

保育者に慣れていればいいか、そうではないと思います。好き嫌いのない食に旺盛な子どもであればそれで充分かもしれません。

ですが食に苦手のある子どもは、苦手なものを前にすると余計に疑心暗鬼になるものです。ただ慣れているだけではなく信頼しているかということは重要です。

 

例えば、信頼関係が構築されている担任が差し出したスプーンには大きな口を開けるけれど、実習生だと断固拒否するというような光景がよくありますね。

信頼している人が差し出すものだからこそ安心して食べられる、これは本能に基づいた当然の反応です。

 

そしてここで注意です。ただ慣れているだけの関係なのか、信頼関係を築けている関係なのか保育者が自分でしっかり見極めて下さい。

わかると思いますが、担任だから信頼関係が築けているかというとそうではありませんね。自分に甘い判断を下さず、しっかりと子どもとの関係を見つめ直しましょう。

・子どもの性格を把握しておく

子どもの持って産まれた性格はまさに十人十色です。嫌なことを「いや」嫌いなものを「きらい」とはっきり言える子どももいますが、自分の意思表示はあまりせず嫌なことも場の雰囲気で受け入れてしまう子どももいます。

言葉や態度で気持ちを表現出来ない子どもの心こそ、保育者が間違えて判断せずしっかりと認識し受け入れていかなければなりません。

 

「ひとくち食べてみよう」という提案にしっかりと「いや」と表現できる子どもはいいのです。「ああ、嫌なのね、じゃあ今日はやめておこうか」「いやいや、ひとくちだけ頑張ってみたらおいしいかもよ」など子どもの気持ちをベースに対応が出来るからです。

ですが、「ひとくち食べてみよう」という提案に嫌だと言えず場の雰囲気で口にしてしまったがばかりに辛い思いをしたとしたらどうでしょうか?

前もってそんな性格をしっかり把握しておけば「嫌だったら嫌って言っていいんだよ」そんな援助も出来ますね。

・家庭環境、家庭での様子を把握しておく

園で食べないピーマンは家でも食べないのか、どの調理法でも食べないのか。

家では嫌いなものへの対応をどのようにしているのか。はじめから食卓に出さないのか、残してもいいという前提で出しているのか。

そんな家庭での様子を保護者から聞くと思わぬヒントがたくさんあります。

「あ~それパパが嫌いだから家で出したことないんです!」という食わず嫌いが隠れていることもありますし、「嫌いなものを無理させていません!」という家庭の方針が出てくることもあると思います。

 

それらを知っておくと「でもこれ食べたことないよね?とってもおいしいんだよ」と保育者がおいしく食べてみせたり、「家庭でもひとくちだけ挑戦してみませんか?」と保護者と連携した取り組みを提案出来たり。

援助の幅が「ひとくちチャレンジ」の枠を超えて広がります。

 

(※激しく拒絶するものが実はアレルゲンだったということもあります!とにかく家庭との連携は食において重要です!)

・子どもの健康状態を把握しておく

保育者として当たり前のことですが、挑戦できる健康状態なのかを知っておくことも大事です。体調が悪いときに無理強いは出来ませんね。

発熱や腹痛など大きな症状がなくても、咳き込みがひどいときは嘔吐を招くことがあるように些細な体調不良も心配です。そして症状が出る前に食欲不振が表れることもありますよね。

そんな万全じゃないときは「ひとくちチャレンジ」どころの話ではないはずです。

(水分は取って欲しいですけどね。)

・その子どもに本当に必要な援助を考える

嫌いみたい、食べない、じゃあ「ひとくち」という発想は危険です。食の援助法は何もひとくちチャレンジだけではありません。

保育者がおいしそうに食べてみせることが有効なこともありますし、園行事のクッキングをきっかけに食べれるようになることだってあります。

大事なのはその子どもにとって本当に有効な援助法が何かを考えるということです。

 

それはつまり、その子どもがどうしてそれを食べられないのかしっかり向き合うということです。

例)

Aちゃん:離乳食の失敗により肉など硬いものを噛み切れず、飲みこめない。

Bくん:発達障害により感覚(味覚)過敏があり、特定のものを拒絶する。

Cちゃん:特に大きな問題はなく食も旺盛だが、人参が嫌いで避けてしまう。

 

原因や状況によってその子どもへの願い(ねらい)が変わりますよね。

例)

Aちゃん:硬い食べ物は噛み切りやすい大きさにし、飲み込めるよう様子を見ていく。

Bくん:拒否するものは無理させず、苦手なものを苦手だと主張出来るよう援助する。

Cちゃん:にんじんへの苦手意識を活動を通して少しずつなくし、ひとくちだけでも食べてみようとする。

 

いかがでしょうか?

AちゃんやBくんに必要な援助はひとくちチャレンジではないことがわかりますよね?

子ども一人一人をしっかり見て、一人一人に合った援助を考えましょう。

 

 

6個の項目をあげましたが、この6個すべてがしっかりとクリアされていなければなりません。どれかひとつでも欠けるものがあるならばそれはまだ「ひとくちチャレンジ」をしてもいい段階ではないということです。

最初にお伝えした通り安易な挑戦は子どもを傷付け、保育者との関係をも壊します。その段階にあるのか、その援助が本当に必要なのかしっかりと考えましょう。

これが「ひとくちチャレンジ」に向けての準備です。

 

◎「ひとくち」を挑戦するための準備(子ども編)

嫌いなものを食べる、その挑戦は子ども主体であって欲しいですね。

子どもが自分で「きらいなものもたべる!」と目標を掲げることが出来たらそれはもう苦手の克服の直前です。

保育活動の中でここまで保育者が子どもの気持ちを動かすことが出来たらそれは素晴しいことだと思います。(理想ですよね~)

 

「食育」が叫ばれるようになり、どの園でも色々な取り組みをしていると思います。自分たちで作物を育てている園もあるでしょう。農家への見学をする園もあるでしょう。

自分たちで調理に挑戦する園もあるでしょう。

それらの園の取り組みを保育者が「行事のひとつ」と捕らえて流さず、これをきっかけに子どもの心に響く食育が出来たら、子どもの気持ちの変化が生まれるかもしれません。

・子どもが「食べてみようかな」と思う

自ら苦手を克服しようとする、それはなかなか到達することは難しいと思います。ですが「ひとくちチャレンジ」をするならばいきなりの「はい、ひとくち!」よりも「苦手なものも挑戦してみようか」という意識確認はしたいです。子どもの気持ちが追いついてなかったら結局失敗に終わります。子どもが「じゃあ食べてみようかな」と思えてから始めましょう。

・「出してもいい」という逃げ道を知っておく

口に入れたものを出すことは行儀の悪いことです。ですが「食べてみよう」と思えて頑張ってみたけどどうしても無理だった、飲み込めなかったということはあると思います。そんなときに「どうしても嫌だったら出してもいい」という逃げ道を子どもが自分で知っておくことは大事です。それは保育者が教えてあげなければなりません。

そんな逃げ道があるからこそ安心して挑戦出来るんですよ。

 

嫌いな物を挑戦するのは子どもです。主役は子どもなのです。頑張りが先生の勝手な思い込み、独りよがりにならないよう、しっかりと子どもの気持ちを受け止めていきたいですね。

 

◎いざ!ひとくち!!!

「ひとくちチャレンジ」の準備を見ていただけたら、ここに到達するまでに結構月日を要することに気がついたと思います。

保育者と信頼関係を結ぶところから考えたらやっと訪れる「ひとくちチャレンジ」の時。

さてこの時にも注意が必要です。

 

・保育者がしっかり見守る

子どもが一世一代の頑張りをするんですからしっかり見守って下さい!見守りは大事な援助のひとつです。

間違えても「はいひとくち!」と保育者がスプーンを突っ込んでその場を離れ、他の子どもを援助!あるいは片付け!なんて流れ作業みたいな関わりはしないで下さい!(そんなの援助じゃありませんから。配慮のかけらもありませんから。)

 

しっかり見守っていれば「(あ、これは飲み込めないな)出してもいいよ」と状況をみて助け舟を出すことが出来ます。早くに対応することで苦手意識がひどく残らずまた挑戦できます。(ここを無理させるとトラウマになります。)

あるいは、飲み込めた時に「すごいね!嫌いなものも食べれたね!!すごいすごい!頑張ったね!!」と一緒に喜ぶことが出来ますね。大好きな先生が頑張りを認め、一緒に喜んでくれる、こんなにも嬉しい成功体験はありません。

・「頑張り」を認める

頑張ってひとくち食べることが出来たら大いに一緒に喜び、その頑張りを認めましょう。チャレンジに向けての準備をあなたが真摯に一生懸命取り組んでいればいるほど、その喜びは子ども本人と同じくらい、いやそれ以上のもだと思います。たくさんほめましょう!保護者にも伝えましょう!

そして、もし結局飲み込めず出してしまい、チャレンジ失敗に終わっても「口に入れることが出来た」「頑張ろうとした」そのことをしっかり認めましょう!達成したときと同じくらい認めましょう、保護者にも伝え保護者からも認めてもらいましょう。その小さな頑張りを一つ一つ見逃さず認められていくことも本人の自信につながるのです。

・無理は禁物!

そろそろチャレンジ出来そうだ!と思った日でも、子どもの気持ちが乗らないことだってあります。そんな時は無理しない方がいいですね。

またチャレンジしたときに失敗したからといって「もう1回頑張ってみて」なんて無理強いも禁物です。失敗したとしてもひとくちはひとくちです。「ひとくちだけ」と言ったのに・・・と子どもはあなたへの信頼をなくします。

そして今日チャレンジに成功したからと言って明日も成功するとは限りません。その時その時の子どもの様子をしっかり見て判断しましょう。「昨日ひとくち食べたから今日はふたくちね!」なんて言わないで下さい。

 

そして保護者へもその旨しっかりお伝えしましょう。

「今日Cちゃん人参ひとくち食べたんですよー、おうちでもたくさんほめてあげて下さい!すごく頑張ったんです!!」」と報告されて嬉しいママが「じゃあ今夜は人参のスープにしてみよう!」なんて思ったら、Cちゃんかわいそうですよね。

ママに悪意はありませんが、Cちゃんを追い詰めることにならないよう「園ですごく頑張ったのでおうちでは甘やかしてあげてください♪」などの一言は保育者として添えたいですね。

◎さいごに

「食」のテーマは壮大で「ひとくちチャレンジ」についてだけでも膨大な記事になってしまいましたが、最後まで読んで下さったみなさん、ありがとうございます。

私は、無理な食援助を常々否定して来ましたが「ひとくちチャレンジ」について否定はしていません。ただそのやり方を間違えないで欲しいと願っています。

 

あからさまに無理やりな食の援助はもはや虐待ですし、そういう方は減って来ていると思いますが「ひとくちだけ」という援助はまるでルールのように現場に溢れています。

「残飯が多くて申し訳ない」「簡単に残させてはいけない」そんな思い込みを抱えた保育者が自分の罪悪感を消すために「ひとくちだけ食べてみよう」と提案し「とりあえずひとくちは食べさせたんだし」と自分を納得させるようなことがあるのです。

それだけは絶対にして欲しくないです。

 

食への記事を書くと「うめ先生は優しすぎるんじゃないですか?」「実際には優しいだけでは無理ですよ」なんて言ってくる方がいますが、優しさで持って主張をしているのではありません!

私が言い続けていることはいつだって一貫していて「個々を大事に」ということなのです。「一人一人に応じた援助をしましょう」ということなのです。

 

「ひとくちチャレンジ」どうかやり方を間違えないで!

どうせするならしっかりそれを子どもの成長へと繋げましょうよ!!